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記憶力選手権で使われる「記憶術」は勉強で使い物になるのか?

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なんでも瞬時に覚えてしまう超人たちがいる。
そうした人たちは「記憶術」という手段を用いて常人離れした記憶力を発揮しているのだが、果たして「記憶術」は日常生活でも使えるものなのか疑問に思ったことはないだろうか?

実のところ、私も勉強に使えないかと記憶術に挑戦したことがあります。
世界最強の記憶術と言われる「記憶の宮殿」だ。
この方法を使えば確かに楽に忘れにくい記憶を作ることは可能ですが、同時に問題点も見つかりました。

というわけで今回は「記憶力選手権で使われる記憶術は日常生活で役に立つのか?」をテーマに話していこうと思います。
参考は『ごく平凡な記憶力の私が1年で全米記憶力チャンピオンになれた理由』と『記憶に自信のなかった私が世界記憶力選手権で8回優勝した最強のテクニック』より。

記憶力チャンピオンたちの記憶術に対する見解

私があれこれ感想を述べたところで仕方がないので
まずは著者たちが記憶法を手に入れてどう思ったのかを見ていこう。

これは『ごく平凡な記憶力の私が1年で全米記憶力チャンピオンになれた理由』の著者ジョシュア・フォア氏が全米記憶力チャンピオンになった後の話です。

さて、私の記憶力は向上したのだろうか? どのテストにも何らかの向上が見られた。作業記憶の測定基準である数唱は9から18と2倍になっていた。詩、人の名前、ランダムな情報の記憶の能力も向上していた。

それなのに世界選手権から数日後の夜に数人の友人と夕食に出かけたとき、地下鉄で帰宅し、実家のドアを開けてようやく、自分が車で出かけたことを思い出した。車を止めた場所は覚えていたが、車を止めたことを忘れていたのだ。

パラドクスだ。ちょっとした記憶芸ができるようになったというのに、いまだに車の鍵や車の置き場所を間違える。「記憶の宮殿」に格納できる類の情報を覚える力は飛躍的に伸びたが、車を止めたことを忘れていたのだ。(329~330Pより引用)

このことからジョシュア氏は「学校の中だったら最高に役に立つが、良くも悪くも実生活と学校の共通点は少ない」とコメントをしており、記憶のソフトウェアはアップグレートされたがハードウェアは本質的に変わっていなかったと表現している。

そして、コンピュータデバイスが発達した現在では記憶術が使える場面はほとんどないと、記憶術の悲しい現状を教えてくれた。ただし記憶力に関しては「記憶が人格の源であり、価値観の基盤になる」から育む必要性があると語っている。

 

続いて『記憶に自信のなかった私が世界記憶力選手権で8回優勝した最強のテクニック』の著書ドミニク・オブライエンさんの言葉を見ていこう。

記憶テクニックが理解を助ける素晴らしいツールであることに変わりはない。何を学ぶにしても、その日、その週、その月と、それまで学んだ情報という土台の上に新しく積み見重ねていくことになる。
自分の可能性を引き出したいと願う意欲的な人材や、明晰で集中力のある人材を育てたいのなら記憶力の訓練を抜きにして学校教育を語ることはできない。(261Pより引用)

こちらはかなりのベタ褒めで、誰もが記憶術の訓練をするべきだと主張しています。
というのも心理学には「知識効果」というものがあり、既存の知識が学習効果を大きく上げてくれることがわかってるんですね。

ドミニクさんはイギリスの学校で記憶テクニックを教えた結果、子供および教師が「このスキルは学習に活かすことが出来る!」と言って、実際に学力が上がり勉強に対する自信をつけ、その結果学習意欲が上がるという好循環を目の当たりにしています。

 

二人の意見を総括すると

・記憶術は学校の授業では使えるが、実生活で使えるかは微妙である
・記憶術よりも記憶力の訓練課程で得られるものの方が重要

という感じでした。
記憶力の訓練課程で得られるものとはイメージを自在に操る力です。

この力があると、必要なときに暗記力を発揮できる、長期的に記憶を保持しやすくなる、関係性の薄いものや覚えにくい概念同士でも関連付けて覚えることができます。
そのため私には記憶術自体はイメージ力を補佐する程度の役割しかないと感じました。

 

記憶術には下準備が必要

まず初めに知っておいてほしいのが、記憶力選手権に出るアスリートたちは出される課題を記憶するために下準備をしているということ。
たとえば「記憶の宮殿」というテクニックには、思い出すのが容易な場所をたくさん準備しておく必要があります。

・家の間取り
・いつも通る通学路
・よく通うジムのトレーニングルーム

こうした正確に思い出せる場所を多数用意しておきます。

実際にあなたも今住んでる家の玄関を思い浮かべてください。
そこにでっかいチーズを置いてみましょう。
その次は廊下ですかね? そこには地球儀を3つ置いてみてください。
このように強く場所と物のイメージをして、たくさんのものを覚えるのが「記憶の宮殿」と呼ばれるテクニックです。

また別のテクニックではトランプ1枚1枚にも何か記号をつけておきます。

クラブのAはバイオリン
スペードの7はスロット
ハートのKは心臓

といった感じです。
他にも3桁の数字まで対応したイメージを覚えるなど、かなりの下準備をします。
決してテクニックを知ったからとすぐ出来るものでもないんですね。

最強の記憶術は長期記憶には向かない

こうした下準備の末に「記憶の宮殿」と呼ばれる記憶術は猛威を振るうのですが、その性質上一度使ったコースは覚えた記憶を忘れるまで使えないんですね。
つまり大量に覚えようと思ったらたくさんのコースを用意しないといけないし、忘れないようにしたいならその覚えたコースは二度と使わないよう封印する必要があります。

だからテスト前の一夜漬け勉強みたいな『暗記科目の一時しのぎ』には使えなくもないけど、基本的には学校の勉強には不向きなんですよね。
じゃあどういうとき使えるのかって言ったら、スピーチで話す内容の順番を覚えるときなどになる。
あとは何を買うかという買い物リストやToDoリストの代わりになるくらい。

たぶん記憶術を求めてる人たちが望んでいるのはコレではないんじゃなかろうか?

ストーリー法とイメージ力

チャンク化という言葉があります。
これは効率的な勉強に必要な概念の一つで、チャンクとは大きな塊のことを指します。
そのため繋がりのある知識と知識を纏めて大きな塊にすることをチャンク化と呼びます。

たとえば「りんご」と「バナナ」の共通点はフルーツということです。
こうやって共通点を作っておくと「りんご」を思い浮かべると「バナナ」の存在を思い出しやすくなります。これがチャンク化です。

記憶力選手権で使われるストーリー法やイメージ力はまったく関係のないもの同士でも、このチャンク化を容易にしてくれます。
おそらくこれが現実的に一番使える手法ではないかと。

イメージ映像を作ってチャンク化する

と、言葉で説明してもなんだか理解しずらいですよね。
なので、まずはこちらの動画をご覧ください。
1:48秒から、実際にストーリー法とイメージ力を使って単語を覚えるテストが始まります。

どうでしょうか?
実際にやってみると短い時間にも関わらずほとんど覚えられたはずです。

しかもこうやって覚えた方法はかなり長時間に渡って記憶に残ります。
ただし前提条件として、そもそもイメージできないものにはこの方法は使えないことを覚えておきましょう。

単語名と意味を覚える

が、何とかイメージを沸かせることができるなら、イメージとストーリーを使って単語名と意味を覚えるチャンク化は可能です。
たとえば私の場合、心理学用語で「リンゲルマン効果」というのを覚える際に

緑色のスライムのようなゲル状のものが輪っかになってる(リング+ゲル)ところに向かって、数十匹のアリが綱引きで使うロープを懸命に巣穴(リング状のゲル)に運んでいる。

と言ったイメージを作りました。

アリは必ず集団のなかで2割がサボりアリになり、8割が働きアリになる習性を持ってます。
そのためリンゲルマン効果の「人間は個人の時より集団になると全体のパフォーマンスが下がる」という説明を思い出すのに打ってつけで、綱引き用のロープはこの効果を証明するための実験(集団綱引き)を思い出すためのものです。

このように、そもそも名前を覚えにくかったり、効果と名前が一致しないものを覚えるのにストーリー法は非常に優秀です。私はなかなかリンゲルマン効果の名前と効果を一致させられませんでしたが、一度イメージを作ってから間違えたことはありません。

 

普段の生活が記憶術の下準備になる

さて、もう一つ私の事例をご紹介しましょう。
今度も心理学用語で「プラットフォール効果」という単語です。
意味は「有能に思われてる人の失敗は親しみやすい印象を与え好感度を上げる」です。

アニメキャラで心理学用語を覚える

丸山くがねさん原作のオーバーロードという作品には「シャルティア・ブラッドフォールン」というキャラクターが登場します。
このキャラはこと「戦闘」という分野において非常に優秀なのですが、物語の途中で大きな失敗を犯してしまいます。しかしそれでも、このキャラは人気のあるキャラクターです。こうした

1、名前が似ているという事実
2、キャラの特性と心理効果をマッチさせる

という類似性を使うことで、私は「プラットフォール効果」をすんなり覚えました。

年号や場所にシンボルを付ける

また色々と汎用性が高いのが「場所」や「年号」です。
日常生活でも「アメリカ」や「東京」に関連した記憶事項って結構頻繁に出てきますよね?
そうした日常での頻出単語にあらかじめイメージを付けておくと、何か勉強でチャンク化イメージを作るときにとても便利です。たとえば

ケンタッキーの発祥地を覚えなくちゃいけない。
→発祥地はアメリカ→アメリカのシンボルは「自由の女神」→カーネルサンダースが自由の女神と一緒にいるところをイメージ

こうしておけばそのイメージを思い出すだけで「そういえばケンタッキーはアメリカ発祥だったなー」と思い出すことができる上に、別の例(たとえばトランプ大統領はどこの国のトップ?)でも「自由の女神像がイメージに出てくるってことはアメリカかー」となります。

年号についても同様で、事前にその年代のシンボルを決めておけば知識に年号が含まれる暗記をするときに圧倒的に楽になります。
しかも「〇〇は2006年に発表されましたよ」なんて日常でサラッと言えたら、話し相手からは「博識だなー」と思われ説得力や発言力が増します。

記憶力チャンピオンたちもやってる

こうした日常生活の中で『概念にイメージをつける』作業を記憶力チャンピオンはやってます。
そうしてふと、以前イメージを作ったものの原型が目や耳に入ってきたらイメージが薄れてないかチェックするようです。そうすることで何時までも鮮明なイメージを残すのと同時に、頭の体操にもなります

こうした日常の中での積み重ねによって何時でも無関係な知識同士を繋ぎ合わせたり、実年齢以上に若々しい脳年齢を保つことが出来るようです。

終わりに

というわけで記憶力選手権で使われる「記憶術」は勉強で使い物になるのか?でした。
実際のところイメージ力を使った方法はかなり使えるんだけど、自分でやろうとすると非常にめんどくさいというのが個人的感想ですね。
なので「どこまでストイックにやるか?」といった線引きは必要な感じ。

また、普段の授業中にはまったくもって使えない。
というのも強力なイメージを作るのって非常に集中力が必要で、記憶力選手権では視界を狭めるゴーグルや余計な音をカットする耳栓が使われるほど。そんなことしてたらイメージ作ることしかできなくて授業の内容を理解するのは絶対に無理ですよねー。

ちなみに今回参考にした本はコチラ。

 

1冊目のほうは記憶力選手権に挑戦するまでの体験記がほとんどで、
2冊目のほうはテクニック紹介多めです。
もし記憶術のテクニックを学びたいと思ってるなら2冊目のドミニクさんの方をオススメします。

あなたにオススメの記事はこちら
>>効率的勉強法『アクティブラーニング』の解説とやり方
>>知らないと大損する2015年以降の『集中力』新常識と簡単テクニック3選

それでは今回はこの辺で。
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